研究紹介 坂本南美 外国語教育における教師・ALTのナラティブ研究

外国語教育における教師・ALTのナラティブ研究

 

外国語教師やAssistant Language Teacher (ALT) のナラティブ分析を通し、その教えの理論や教師としての成長の様子を研究しています。言語教師のナラティブ研究では、「教師自身のナラティブを用いた教師による教師のための探究の推進」(Jonson & Golombek 2002)のために、語りの分析から経験や知見の意味付けのプロセスを通して、教育実践現場における「教え」と「学び」の理解をめざしていきます。研究者と実践者の協働の中で、言語教師が内省的に授業を振り返る過程を明らかにしながら、教員研修や授業研究への貢献を目指しています。

研究紹介

Results announcement

参加者たちのナラティブから探る英語教育の教えと学び (2020)

(坂本南美,前田幸也,岩本華苗,今井裕之)

第8回日本国際教養学会全国大会シンポジウム,JAILA Journal vol.6.論文掲載(特別寄稿論文)]

日本の英語教育は、小・中・高・大のつながりを持った教育を軸に、グローバル人材育成を目指した教育改革のさなかにあります。日本国際教養学会第8回全国大会の公開シンポジウムでは、大学教員(今井)、中学教員の経験を持つ大学教員(坂本)、高校教員(前田)、中高時代に彼らのもとで英語を学んだ学習者(岩本)の4人が、それぞれの立場から捉えた小・中・高・大での英語教育について語りを深める機会となりました。本稿は、シンポジウム開催に至る背景と当日発表、および討論された内容報告を行ったものです。まず、今井が小学校現場に関わる中で小学校での授業実践から見える問いを提案しました。続いて、坂本が英語教師の役割について触れながら、中学校や大学での授業実践から教室理解について探究していきました。前田は高校教員として、生徒の学習意欲を引き出す取り組みを紹介し、そこに根ざす自らの教えの理論について語っています。最後に坂本・前田のもとで学んだ学習者の岩本から、中高での英語授業の学びの振り返りをもとに、大学生となった現在の自分と英語との関係について語られました。彼らの語りは、互いの物語が織り交ざりながらそのつながりや多面的な視点を生み出し、学習者や教師を含めた教室にいる人々の成長の様子を、英語教育という大きな枠の中で理解していくきっかけとなりました。教育改革のさなか、今後の英語教育の可能性を図るにあたって、本稿が一つのきっかけになることを強く願っています。

日本の公立中学校に勤めるALTの同僚性に関するナラティブ研究(2019)

[第7回日本国際教養学会全国大会 口頭発表(優秀発表賞受賞),AILA Journal vol.5. 論文掲載]

本研究は、日本の高等学校に勤めるALT(Assistant Language Teacher)が、日本人教師との同僚性を育む中で、授業を通して教師としての専門性を高めていった様子を探求したナラティブ研究です。日本の学校では、1987年のJET ProgrammeによるALTの導入以降、小・中・高等学校の英語授業にJTE(Japanese Teacher of English:日本人英語教師)とのティーム・ティーチングが実現してきました。ALTは、授業ではアシスタントの役割を担い、JTEと協働で授業を進める中で、日々の生徒たちの学びをサポートしていきます。来日するALTたちのバックグラウンドは多様であり、母国で教職経験を積んでいる人もいれば、人生で初めて教壇に立つ人もいます。また、来日するALTたちの出身国も最近では30カ国を超え、文化的背景も様々であることがうかがえます。このような背景のもと、ALTたちは、来日してすぐに勤務校へ配属となり、日本の英語教育という新たな文脈の中で授業を始めていきますが、そこで彼らはどのように教師としてのアイデンティティを構築していくのでしょうか。また、ティーム・ティーチング授業を行う教室の中で、どのように自分自身を位置づけていくのでしょうか。本研究では、姉妹都市交流プログラムで来日したアメリカ人のALTが、中学校でのティーム・ティーチングの英語授業を通してJTEとの同僚性を育む中で、生徒たちとの関係を築き、授業の実践力をつけていく様子を彼のナラティブから質的に探求しています。本研究は、第7回日本国際教養学会全国大会で口頭発表されています。

A case study of ALT identity construction through narrative inquiry: sociocultural and stylistic perspectives(2019)

(Sakamoto, N. & Teranishi, M.)

[PALA 2019口頭発表,online proceedings論文掲載]

本研究は、日本の中学校・高等学校に勤めるALT(Assistant Language Teacher)とのインタビューの分析を通して、彼らが教師としてのアイデンティティを構築していったプロセスを探求したナラティブ研究です。インタビューは、2人のALTへそれぞれ約1年の間をあけて2度実施され、彼らのナラティブは社会文化的視点及び文体論的視点の2つの異なるアプローチからの分析を試みています。高等学校に勤めるALTとのインタビューからは、彼が日本の学校という新しい文脈の中で、生徒との関係を模索し葛藤しながら、教師としての立場と親しみやすい兄弟のような立場を行き来する自分に変化していった様子が可視化されていきました。そこでは、自らのアイデンティティを再構築しながら、自分と教室にいる他の人たちとの間に感じていた境界を乗り越えていった様子も浮かび上がっていきました。また、中学校に勤めるALTとのインタビューでは、教壇に立つ自分を、一人で教授に向き合う“I”としての自分から、ティーム・ティーチングをともに行う日本人英語教師を含む“we”としての自分へと変化させ、教室で起こる様々な出来事に同僚と協働して向き合うようになっていった様子が捉えられました。本研究でのALTのナラティブの分析を通して、彼らの内面的な変容やティーム・ティーチング授業へのより深い理解を目指す中で、これからの日本の英語教育における授業実践を再考する示唆となることを願っています。