
外国語授業研究
Research in Foreign Language Learning and Teaching
教室でのインタラクションや学習者のナラティブの分析を通して、学習者の学びの様子を可視化し、授業研究や教材の開発を進めています。小学校・中学校・高等学校での授業実践や現職教員の授業を捉える中で、実践者と研究者の両者の視点から外国語授業へアプローチしていきます。授業研究をもとに、学習者の学びの段階に合わせた帯活動や言語活動、タスク活動等を通して、4技能5領域(「読む」「聞く」「書く」「話す[発表]」「話す[やり取り]」)を総合的に取り入れながら、教室での他者とのかかわりの中で学習者の深い学びを引き出していく授業デザインの開発や授業改善を目指しています。
研究紹介
Inquiry into content and language integrated learning in Mongolia: A Japanese and science integrated lesson at a school in Ulaanbaatar(2019)
(SAKAMOTO, N., TAKAHARA, S. & GANBAATAR, T)
■[Efficiency and Effectiveness of Educational Service International Conference 口頭発表,岡山理科大学紀要 Vol.55(B). 論文掲載]
Content and Language Integrated Learning(CLIL:内容言語統合型学習)は、外国語の学習だけでなく、学習内容の知識・技能習得にも対応した教育アプローチとして注目を集めています。本研究では、近年の民主化のもと、大規模な教育改革を進めているモンゴルで、新たな教育アプローチとして、高校生を対象に外国語(英語)と教科内容(科学)を統合したCLIL授業を実践しました。科学実験を取り入れた授業実践を踏まえ、外国語と教科内容の両方の習得における教育的効果について、学習者への質問紙とインタビューの分析を行いました。データ分析の結果から、外国語という難しさも感じつつも、実際に実験を行うことで、学習者が初めて取り組む実験内容とこれまで得てきた科学知識とを関連付けて学びを深めていた様子が捉えられました。また、実験中に用いた新出の英語表現は、音声で認知された後は、徐々に学習者間で使用されるようになり、言語的知識の内在化も同時に行われていた様子が捉えられました。学習者の振り返り記録からは、科学に重心を置く生徒や言語に注目する生徒といったバランスの差異はあるものの、グループ活動を通して相互にモティベーションを高め合った様子も浮かび上がっていきました。本研究では、学習者に加えて参加したモンゴルの教員へのインタビューも実施しており、今後、現地の教員研修で行う新たな枠組みとして、本手法の可能性を示唆する研究となっています。
『「学ぶ・教える・考える」ための実践的英語科教育法』
(酒井英樹, 廣森友人, 吉田達弘編)
■(「第11章 中学校の指導と評価」「コラム」を執筆)(2018)
本書は、大学での教員養成課程における実践的英語科教育法のテキストとして構成されています。2020年4月から小中高等学校で順次実施されている新学習指導要領に基づいたテキストです。担当した章では、中学校の英語授業における指導と評価に焦点をあて、英語授業デザインと評価を考える上で必要な要素や内容を概説し、具体的な英語の授業計画と言語活動の例も提示しています。前半では、中学校における英語の授業の指導目標と指導計画、CAN-DOリスト、小中連携、多様な活動の組み合わせ、ICT教材の活用、ALT(Assistant Language Teachers)とのティーム・ティーチングなどを解説しながら、中学校3年間の英語授業を計画する上で重要な要素を整理していきました。後半では、4技能5領域を総合的に取り入れながら英語の授業をどのようにデザインするか、学習指導案の作成も含めて、教師が授業実践のために準備すべきことも示しています。そして、2020年度から施行される学習指導要領で提示されている育成を目指す3つの資質・能力(知識・技能、思考力・判断力・表現力等、積極的な学習態度・人間性等)をどのように育んでいくかという点についても提案しながら、各資質・能力の評価についてまとめました。本書にはQRコードによるコンパニオンサイトも準備されており、将来の英語教師の卵である方々、すでに英語教師として教壇に立っている方々が、英語授業を実践的に概観し、さらに理解を深めるきっかけとなるテキストを目指しています。
中学校英語授業における『読むこと』を通した協働的な学び(2017)
■[岡山理科大学紀要 Vol.53(B). 論文掲載]
2020年から順次、施行される新しい学習指導要領では、「主体的,対話的で深い学び」の実現を目標とし,外国語では「読むこと」「聞くこと」「話すこと[やりとり]」「話すこと[発表]」「書くこと」の5つの領域を総合的に取り入れた授業を目指すことが明記されています。昨今,「話すこと」に関しては,コミュニケーション活動から発展させ、ミニスピーチや発表活動にも取り組む学校が増えています。「聞くこと」に関しては,教材が充実しており,副教材としてのリスニングや教師によるオリジナル教材を投げ込み,リスニング素材の内容の幅が広がっています。また、「書くこと」については,教科書の中にラィティングに関わるものが増え,プロジェクト型の学習として扱う学校も増えてきました。その中で、「読むこと」に注目したとき,高等学校の文脈では,副読本を採用し、個々の学習者のペースに合わせて取り組む課題を設定している学校が多く見受けられますが、中学校に関してみると、学習段階に合わせて、教科書内のリーディング教材にとどまり、副読本まで扱う事例は非常に少ないのが現状です。こうした背景を踏まえて,本研究では,中学校の英語授業における「読むこと」に注目し,これまで限定的に取り扱っていた英語文学の多読を,プロジェクト型学習として中学3年生の授業に9カ月にわたって取り入れ、グループリーディングの手法を用いて、主体的、対話的で深い学びの実現を目指しました。研究では、グループリーディングに取り組む学習者たちのディスコースを記録し、活動を通した彼らの「読むこと」への取り組みを探ることで,自律的な学習者を育むための授業デザインについての示唆を試みました。
ペアによる4コマ写真を用いたcreative writing活動(2016)
■[関西英語教育学会第21回研究大会 シンポジウム,KELES Journal Vol.2. 論文掲載]
中学校の英語の授業で取り組むペア活動は、パターンプラクティスから、音読やコミュニケーション活動、創作活動から発表会まで幅広く、いろいろな活動の中で活用されています。ペアやグループによる協働的な活動は、教室での学び合いの時間を生みだす機会となり、一人では難しい内容も、相談しながら発展的に達成させていくことを可能にしていきます。また、ペア内で完結するだけでなく、ペアによるスキットなどを発表活動等につなげていくことで、クラス全体で成果を共有しながら、英語を使う自信を育む契機にもつながります。そこで、ペアによってどのようなタスクを展開していくか。ペア活動を考えるとき、教員は、1)2人の協力で達成できるレベルの目標設定をすること、2)生徒たちの現在の興味や視点に寄り添った場面設定をすること、3)どの程度まで制限をかけていくかを見極めること、4)学習者のcreativityを引き出すような自由度を残しておくこと、5)生徒たちが達成感を味わえる楽しさを含ませておくこと、を意識におきながらタスクデザインを行っていきます。これらを踏まえて、本研究では、中学2年生70名を対象に、プロジェクト型にデザインしたペアで行う創作英作文活動を実施しました。授業に取り入れたのは、4コマの写真をもとにストーリーを創作する活動です。データとしては、2年生に進級して5度目となるペアでのcreative writingに取り組む彼らのディスコースを記録し、それらを質的に分析していきました。そこでは、ペアの組み合わせによって多彩な学び合いの場が創造されており、ディスコースの中で、互いの言葉が発展的な足場掛けを生み出すように機能する場面も多く見られました。本研究では、ペア活動において学習者間で何が行われているのかを理解する一つの視点を捉えていきました。